オフィス・ラブ #3
これなら、明るいうちに着けるだろう。
新幹線の窓から、高い空を眺める。
新庄さんの家に寄ってから帰るつもりだった。
空気を入れ替えて、掃除をして。
駐車場にも行きたい。
二泊。
たっぷり時間があるようで、その実、触れあったのは、一瞬だった気がする。
ちり、と痛みを覚えて。
思わず、わずかに身を折った。
新庄さんが、転げ落ちるように寝てしまったあの夜。
私こそ気がゆるんだのか、目を覚ましたら隣の新庄さんがいなかった。
時間を確認して、がばっと跳ね起きる。
(泊めてもらって、寝過ごすって…)
慌てて寝室を出ると、洗面所からドライヤーの音がした。
一応ノックをしてのぞくと、シャワーを使ったばかりらしく、濡れたいい香りがする。
新庄さんは、ボクサーパンツ一枚という無頓着な恰好で、髪を乾かしていた。
鏡越しに私を認めると、ドライヤーを切って、振り返る。
「ゆっくり寝てろよ」
「そんなわけには…」
何時に出ます? と訊くと、まだ少し余裕があったので、コーヒーを淹れることにした。
新庄さんも私も、普段から朝食はとらない。
ひとり暮らしサイズの冷凍庫から、カフェイン入りの豆を取り出す。
相変わらず空っぽの冷蔵庫を眺めているうちに、思いついた。
「お鍋とか、少し置かせてもらってもいいですか?」
「好きにしたらいい」
髪を乾かし終えた新庄さんが、そのままの格好でダイニングに戻ってくる。