オフィス・ラブ #3
あきれたことに、それを聞いた私は、自分でも驚くほどのショックを受けて。

ショックを受けた自分に、また衝撃を覚えた。


いいもんだよ、と笑って、男性は新庄さんと別れ、路地へと折れていく。



(私…)



何、考えてたんだろう。

新庄さんに、何を期待してたんだろう。


自分に、期待する権利があるなんて。



どうして勝手に、思ってたんだろう。





「大塚?」



上から呼ばれて、自分がしゃがみこんでいたことに気がついた。

新庄さんが、不思議そうな顔で私を見おろしている。


慌てて立ちあがろうとすると、新庄さんが手を差し出してくれた。

なんとなく、少し迷って、手を乗せる。



「迎えに来たのか」



嬉しそうに微笑んで、立たせてくれると、私の手をとったまま、歩きだした。

指を絡めて、引き寄せてくれる。


東京じゃ、誰に会うかわからない場所で、こんなこと、絶対にしないのに。

知らない土地で、開放的になっているんだろうか。



「一日、何してた」



そう訊いてくる声は、いつものとおり、優しくて。

だけどもしかしたら、その目が見ている未来は、私とは全然違うものなのかもしれないと、そう思ったら。


回らない頭で「まあいろいろと」と答えるのが、精一杯だった。





なんとも幸運なことに。

私は夜、体調を崩し。


新庄さんを、拒む必要がなくなった。

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