オフィス・ラブ #3
ベッドメイクのされていない、むき出しのマットレスに腰を下ろす。

寝室も、PCがなくなった以外は、ほとんど以前と変わりがない。



新庄さん。



思わず、つぶやく。

この部屋で、このベッドで、何度その名前を呼んだだろう。



自分の強欲さを目の当たりにして、身がすくむ思いがする。

いつの間に、こんな欲張りになった。

そばにいるだけで、幸せなんじゃなかったのか。


ここまで大事にされて、愛されて。

他に、何を求めるつもりなのか。



久々なので、本格的に掃除をしようと、洗面所に向かった。

髪をまとめながら、ふと鏡を見て、立ちすくむ。



ピアスが片方、ない。



(嘘)



とっさに足元を見るけれど、ない。

他の部屋も、バッグも探すけれど、ない。


今朝つけたのは、確かに覚えている。

その後、確認したことは、たぶんない。


落とし場所の可能性が広すぎて、探すにも探せないことに気がついて。

リビングにへたりこんだ。


新庄さんがくれた、初めての装飾品。

立ちあがる気力もなくて、ソファに顔をうずめる。



(罰があたった)



思いついたのは、そんなことだった。

新庄さんが作りあげてくれた、幸せな場所の上に、甘えて、安住して。

欲をかきすぎたから、罰があたったんだ。



『もう当分、考えてませんね』



きっぱりした声を、思い出す。

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