オフィス・ラブ #3
新庄さんが異動してからどのくらいたったか、指を折らないとわからないくらいになった。

9ヶ月…いや、10ヶ月か。


ずっと携わってきた、広告と購買との関係を分析するシステムの導入が、いよいよ目前に迫り、社内の各営業部署を集めて、日替わりの説明会が開催されていた。


11営6部です、と名乗って堤さんが立ちあがる。

どうぞ、と言いながら、新庄さんが控えめに嫌そうな顔をするのが見えた。



「機能と直接関係はないのですが、よろしいでしょうか」

「…どうぞ」

「そもそもこのシステムは、マーケ専門の関係会社の管轄下で開発がスタートしたと記憶しています」

「おっしゃるとおりです」

「今さらそれを社内で統括する意図は?」



しれっとそう訊く堤さんに、私は背筋が凍る思いがした。

前方のマーケの人たちの顔色を見るに、そこは触れてはいけないところなんだと、予想がついたからだ。


新庄さんは堤さんをじろっと見て、なぜか隣の私まで冷たくにらむと、マイクを口元に持っていき、少し言いにくそうにした後、簡潔に答えた。



「実働部隊である営業部門と、物理的に、より近い場所で統括するほうが、効率的との判断です」



言い終えて、こちらを見るけれど、堤さんはまだ、返答へのお礼を言わない。


面白がるように待ちかまえる表情を見て、新庄さんが、マイクに入らないように舌打ちしたのがわかった。

少し、あちこちに目を泳がせて、嫌々といった声で、続ける。



「というのが、まあ事実でもありますが、建前で」



ホールが、かすかにざわめいた。

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