オフィス・ラブ #3
「恵利ちゃん、先月の実績確認お願いね」
アシスタントの桜井さんが、わざわざデスクにやってきて、声をかけてくれる。
「はい、すみません」
そうだ、外出やらなにやらで、チェックが延び延びになっていた。
返事をして、急いで経理システムを立ちあげた。
前月分の入出金が、リストになっている。
それを、自分の手元の予算簿と照らしあわせる。
(えっ――)
マウスを持つ手が、ぎくりと震えた。
もう一度確認する。
入金額が、合わない。
予算簿との誤差は、170万円。
この半端な額には、覚えがある。
直前になって空いた枠を、すべりこみで破格の提供をした、慌ただしい案件だった。
記憶を探るけれど、確かに請求処理をした覚えがない。
私の、請求漏れだ。
期をまたいでいるから、取り返しがつかない。
ありえないような。
ミス――。