オフィス・ラブ #3
「珍しいですね、大塚さんがこんなミス」
サービスにさせていただきます、と申し出たら、小出さんが少し驚いた顔をした。
「面目もありません」
「いやいや、こっちはどこも痛くないので。こういう失敗は、いつでも歓迎です」
そう、冗談めかして笑ってくれる。
けれど、一緒に持っていった提案を、飲んでくれることはなかった。
駅までの地下道を歩く足が、自然と鈍くなる。
毎日の仕事が、こんなに重いと感じたことは、これまでなかった。
自分の力で仕事を取って、それを実行する快感が好きで、この仕事にやりがいを感じていたけれど。
結局は、最大手である社名と、広告主との間の契約で、相当に底上げされた中で、私は走り回っていたのだ。
ピアスは見つからない。
新庄さんから連絡もない。
来週末は出張だから、今週の末に、もう一度新庄さんの家に行って、空気を通してこよう。
だけどきっとその頃には、いっそうあの家から、新庄さんの気配が消えているに違いない。
どっちを向いても袋小路で。
私は、いったいどこへ行ったらいいのか、さっぱりわからなくなってしまった。
「どこも、価格下げてきてますね」
高木さんが、深刻な面持ちで言う。
だろうね、と堤さんがうなずいた。
メディアチームの、席にいた数人だけで、軽い進捗報告が行われていた。
ごく簡単な報告なので、みんな自席にいるまま、不在の井口さんの机に、堤さんが腰をかけている。