オフィス・ラブ #3

「WEBは、特に顕著だろうね」

「どう考えても、これから一番伸びますからね」



イベントとWEBを兼任している高木さんがうなずく。



「雑誌はどう、大塚さん」

「同じです。私も提案したことのある媒体が、破格で他店から買われています」

「内容は」

「探れた範囲では、安かろう悪かろうが半分、代理店の持ち出しという感じのが半分、というところでしょうか…」



持ち出しとはつまり、本来代理店の利益となる部分を削っているということだ。

要するに、無理な値引きで。

そんな提案が、長続きするわけがない。


どこも、なりふりかまわずに、仕事をとりにきているのを、痛いほど感じた。

だいたいわかった、と堤さんが腰を上げる。



「うちは、これまでどおり、質で勝負する。けど、無理じゃない価格見直しは、積極的にするように」



了解しました、と全員が口をそろえた。



『ただの価格競争に持ちこんだら、俺たち自身のブランドに傷がつく』



新庄さんの言葉を思い出す。

そうしたら、二度と立て直せなくなる、と彼は言った。


あの人らしい考え方だ。

私たち自身の、ブランド。


確かにそのとおりで、それをしたら最後、他の代理店と差別化ができなくなり、泥仕合になる。

私たちには、私たちにしかできないことがある。

今はつらくても、それを貫く。



頭ではそう思うけれど。

どこか気持ちが乗りきらない自分を、感じていた。



< 85 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop