オフィス・ラブ #3
「WEBは、特に顕著だろうね」
「どう考えても、これから一番伸びますからね」
イベントとWEBを兼任している高木さんがうなずく。
「雑誌はどう、大塚さん」
「同じです。私も提案したことのある媒体が、破格で他店から買われています」
「内容は」
「探れた範囲では、安かろう悪かろうが半分、代理店の持ち出しという感じのが半分、というところでしょうか…」
持ち出しとはつまり、本来代理店の利益となる部分を削っているということだ。
要するに、無理な値引きで。
そんな提案が、長続きするわけがない。
どこも、なりふりかまわずに、仕事をとりにきているのを、痛いほど感じた。
だいたいわかった、と堤さんが腰を上げる。
「うちは、これまでどおり、質で勝負する。けど、無理じゃない価格見直しは、積極的にするように」
了解しました、と全員が口をそろえた。
『ただの価格競争に持ちこんだら、俺たち自身のブランドに傷がつく』
新庄さんの言葉を思い出す。
そうしたら、二度と立て直せなくなる、と彼は言った。
あの人らしい考え方だ。
私たち自身の、ブランド。
確かにそのとおりで、それをしたら最後、他の代理店と差別化ができなくなり、泥仕合になる。
私たちには、私たちにしかできないことがある。
今はつらくても、それを貫く。
頭ではそう思うけれど。
どこか気持ちが乗りきらない自分を、感じていた。