オフィス・ラブ #3

日曜。


天気もよく、暖かかったので、予定どおり新庄さんの部屋に行くことにした。

もう、10月も終わる。

去年の今ごろ、他店が運営するイベントに、新庄さんと行ったなあ、と懐かしく思い出す。


そうだ、とひらめいて、マンションの最寄駅から、そのまま乗り換えて、新幹線の接続駅へ向かった。

駅から歩いてすぐの場所に、新庄さんのなじみのディーラーがある。


以前一度、一緒に訪れたことのあるその店舗は、かなりの大型店舗で、吹き抜けの造りが開放的だ。

一点のくもりもない、ガラスの自動ドアをくぐると、すぐにひとりのセールスマンが声をかけてきた。



「カタログをいただきに来ただけなので」



そう謝って接客を断ると、奥にいたひとりが、あれ、と声を上げて、こちらに来る。



「新庄さんといらした方ですね」

「あっ、こんにちは!」



新庄さんの担当セールスだ。



「大塚さん、でしたか」



名前まで覚えているのか。

さくっと帰る予定だったので、かえって申し訳なくなる。

正直にそう言うと、かまいませんよ、と気さくに笑ってくれた。


たぶん、新庄さんより少し年上くらいの、小柄で、柔らかい雰囲気の男の人。

けど物腰や話しぶりからして、たぶん相当バリバリ売りあげる人だと思う。

あの新庄さんが、へたな人から車を買うわけもないから、たぶんその印象は当たっているだろう。



「特別仕様車が出たって聞いて」

「はい、おかげさまで、なかなかご好評いただいてます」



広くて明るいフロア内に並べてある展示車の間を縫って、カタログの棚に案内してくれる。

こちらですね、と一冊を手渡してくれながら、不思議そうに訊いてきた。



「今日は、新庄さんは?」

「実は今、出向中で、大阪なんです」


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