オフィス・ラブ #3

(え?)



階を間違えたかと思ったけれど。

空いたスペースの両隣に停まっている車は、確かにいつものだ。



(嘘…)



どういうこと。



マンションに駆け戻って、あせる手で鍵を開け、靴箱の引き出しを探る。

スペアキーは、そこにあった。


ということは、あの車を動かせるのは、マスターを持っている新庄さんしかいない。



車を、取りに来たんだ。



いつの間に。

どうして、何も言わずに。



(こっちに来る用事があるなら…)



連絡くらい、くれてもいいのに。



それよりも。

車を、持って行ったってことは。



向こうに、本格的に落ち着くということだろうか。





『長くなるようなら』





そう言っていた。


長くって、どのくらい?

あの時、ちゃんと聞けばよかった。



気づいたら握りしめていたスペアキーを、引き出しに戻す。

新庄さんの置いていった、金属の靴べらに当たって、かちんと音を立てた。



私。

どっちに向かって歩いたら、いいんだっけ。



< 89 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop