オフィス・ラブ #3
(え?)
階を間違えたかと思ったけれど。
空いたスペースの両隣に停まっている車は、確かにいつものだ。
(嘘…)
どういうこと。
マンションに駆け戻って、あせる手で鍵を開け、靴箱の引き出しを探る。
スペアキーは、そこにあった。
ということは、あの車を動かせるのは、マスターを持っている新庄さんしかいない。
車を、取りに来たんだ。
いつの間に。
どうして、何も言わずに。
(こっちに来る用事があるなら…)
連絡くらい、くれてもいいのに。
それよりも。
車を、持って行ったってことは。
向こうに、本格的に落ち着くということだろうか。
『長くなるようなら』
そう言っていた。
長くって、どのくらい?
あの時、ちゃんと聞けばよかった。
気づいたら握りしめていたスペアキーを、引き出しに戻す。
新庄さんの置いていった、金属の靴べらに当たって、かちんと音を立てた。
私。
どっちに向かって歩いたら、いいんだっけ。