オフィス・ラブ #3
「マーケでも向こうでも、部下を持っていませんし。気がゆるんでるんでしょうか」
「解放されちゃってるわけか」
「ありえなくはないと思いますけど」
確かに、それはあるかもしれない。
10名近くの部下を率いているのと、一番若手として先輩に囲まれているのとでは、まったく違うだろう。
かつ、大阪というアウェイの地で、なおさら自由になっていることは、この間の様子からも、想像できた。
「きみ、なかなか話せるね、メガネくん」
「三ツ谷です」
さっき自分で内線くれたでしょ、ともう一度言って、はあと息を吐きながら、親子丼をつつく。
「にしても、女の人を部屋に上げるのは、別問題ですよね。何やってるんでしょうか」
「何か理由があったんだと思うけど…」
「どんな?」
彩の鋭い突っこみに、うつむいてしまう。
「あんた、この隙に、恵利をとっちゃいなよ」
「当て馬になるのがオチですから。あの人は、大塚さんに惚れてますよ」
それは、保証します。
ため息とともにそう言われて、嬉しい反面、どうしたらいいか、わからなくなる。
そうなんだろうか。
そうなのかもしれないけど。
でも。
「だからこそ、理解できないんじゃん」
「僕に怒らないでください」
鋭い代弁をしてくれる彩と、あくまで明るいふたりに救われながら、私は、のろのろと昼食を進めた。