オフィス・ラブ #3

夢を見た。



やけに明るい部屋にいて、隣には、新庄さんがいる。

彼は、どうやらすぐにどこかに行かなきゃいけないらしくて。

行かないでって言ってるのに、聞こえてないみたいに笑う。

いや、言ってるつもりで私、言ってないんだ。


声って、どうやって出すんだっけ。

寂しいって、どう伝えるんだっけ。


ここ、どこだっけ。





それが夢だと気がついたのは、真っ暗な中、目が覚めたからで。

一瞬、どこにいるのかわからなかった。


ざらっとした感触が頬をなでて、自分のベッドじゃないなと思い。


新庄さんの寝室で寝てしまったことに、気がついた。



ぼうっとした頭で、身体を起こす。

リビングとの境のドアが開きっぱなしで、そこからぼんやりと、薄明りが入ってきていた。


その時、何が私を覚醒させたのか、わかった。



玄関で、物音がする。



たたきの、靴音。

玄関に上がる音、廊下を歩く音。



ドアにそっと近づいて、リビングをのぞく。

廊下に続くドアから、フットライトの光が差しこんでいるおかげで、広い室内は、いくらか物影を認識することができた。



そのドアが開いて、長身の人影が浮かびあがる。

スーツ姿で、鞄を持っている。


リビングに入ってくるなり、携帯を操作して、煌々と光を放つそれを、耳にあてた。

鞄を持った左腕を上げて、携帯の明かりで腕時計を確認すると、その鞄をダイニングチェアにどさりと置く。



その時。

私のバッグから、振動音がした。

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