花のかほりは君の香り
冷たい風が頬を優しく撫でた。


『……ん…ぅ……』


『気がついた?救急車呼んだから
 もう大丈夫だよ』



ぼやけた人影に上から覗き込むように見られて、初めて自分が倒れたことに気づいた。



『すいませんっ…
 ありがとうございました。
 (あのまま気を失っちゃったんだ
  超恥ずかしいよぅ…)』


あまりの恥ずかしさに勢いよく起き上がり私は何事も無かったかのようにその場から去ろうとした。


『あっ!待って。救急車呼んだんだ。
 君頭が痛いんだろう?念の為に見て
 もらった方が良いよ。』


(せっかく呼んでくれたのにこのまま去られたら、この人困るよね…まだ頭痛もするし、そうしよう)

『ありがとうございます。そうします。』



返事をするとホッとしたような声で、私をベンチに促した。


『顔色もまだ良くないね。
 よかったら救急車が来るまで
 ここにいても良いかな?』


『いえ…これ以上迷惑は……っ』



その時、初めて私は彼の顔を見た。

意識が戻ってベンチに座ったまでの間、なぜ私を助けた人の顔を見ていなかったのだろうと思ってしまうほど、私は彼にくぎづけになっていた。


私を見るその瞳は青く澄み渡り、少し垂れた目尻が彼の優しさを表していた。
乾いた冷たい風が白金色の髪を揺らし、透きとおってしまいそうな白い肌は華奢な印象を与えた。だが、広くいかった肩や骨ばった手が男性であるのだと強く意識させられた。

1度見たら忘れられないこの顔に思わず、言葉は途切れ、思考が停止してしまった。


(……この人の回りの空気…輝いてるって
いうのかな……まるで天使……)


そう思った時、何か大事なことを忘れてしまったような気持ちに襲われた。

思い出そうとしても、切ない思いが溢れるだけで、頭にもやがかかったようになる。




ズキッ


『いたっ…』
(まただ…こうなるといつも頭痛が酷くなる
一体なんなんだろう)



『大丈夫?辛いなら横になって
 僕の膝に頭乗せていいから』


『大丈夫ですっ!このままで大丈夫です! むしろ一人で大丈夫なんでっ!
 これ以上迷惑かけられないんでっっ!』


『そんなことはいいから…
 さぁこっちに来て。』


(うわぁ~まぶしい……いくら断っても
聞いてくれそうもないなぁ…
あれコート来てるからよくわからないけど
この人、私と同じ制服じゃない?)

『あの…もしかして聖リーチェスト学園の
 生徒ですか?』


『え?あぁそうだよ。君もそうみたいだ  ね』


遠くからサイレンの音が聞こえてきた。


『救急車…来たみたいだね。
 よかったら君の名前と学年教えて
 くれないかな?
 僕は美神カイル3―Aよろしく。』


『2―Aの木ノ下灯です。
 たぶん私のせいで遅刻ですよね…
 すいません。』


『また君に出会えるなら
 何度でも遅刻するさ』


『え…?』


『あ…もう来たみたいだね。
 君の事は僕から担任に伝えておくから
 心配しないで。』


『あの…ありがとうございました!』


そう言うと、美神先輩は手を振り救急車の扉がしまったのだった。





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