浮気者上司!?に溺愛されてます
俯いたまま肩を震わせていた私に、恭介がとても静かにそう言った。


「俺はお前のこと本気で可愛いって思ってる。大事な部下だし、だからこそ守ってやりたい。……しかもこんなプライベートを削ってまで、なんて、ただの部下にはしたことないんだけど」


ゆっくり、区切るように言うから、とても真摯な言葉に聞こえる。
私はおずおずと顔を上げて、私の正面でポリッとこめかみを掻く恭介をジッと見つめた。


「……伝わらない?」


少し困ったような表情に、私は少しだけ笑ってみせた。


「……十分です。ありがとう」


そう。恭介にとっては、これがきっと精一杯の言葉だ。


今まで何度も何度もこんな空虚な気分を味わった。


絶対に私を一番に出来ない人だとわかっている。
最初から本物にならないとわかっている。
なのに恭介の浮気は真剣過ぎて、私は幻想を抱いてしまう。


恋、出来たらいいのに。
恭介と、嘘でもいいから『恋』出来たらいいのに。


そう思ってしまう自分に戸惑いながら、私は無理矢理元気な笑みを浮かべて、恭介に向き合った。


「さ、お口に合ったのなら、食べてください! 冷めちゃうともったいないから」


そう言って自分を取り繕って、いつも通りの空気を生み出すのが精一杯だった。
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