浮気者上司!?に溺愛されてます
当たり障りのない会話を思い出したようにポツポツと交わして、穏やかな食事を終えた後、私はとっておきの紅茶を茶葉から蒸らして淹れた。


爽やかで芳しい香りが狭い室内に漂う。
カップを持って紅茶を飲む仕草まで、恭介は優雅だ。
美味しい、と目を細めるその柔らかい表情に、つい目を奪われてしまう。


こんなゆったりした時間が、いっそいつまでも続けばいい、と、私は本気で思っていた。
だけど、言わなきゃ。
今言えなければ、何の為の最後の晩餐だったのか、わからなくなる。


「……恭介、あの……」


意を決して、顔を上げた。
ん?と向けられる瞳に、すぐ揺らいでしまいそうになる。
それでも、気持ちを奮い立たせて、私は真っすぐ恭介を見つめた。


「あのね、もう……」


思い切ってそう口を開いた時。
カタン……と小さな音が耳に届いて、私は一瞬ビクッと身体を震わせた。


わずかな空気の振動が伝えた音だったけど、それは確かに恭介にも聞こえたみたいだった。
眉間に皺を寄せて表情を引き締めると、静かにカップをテーブルに置く。
そして、一瞬耳を凝らしてから、ゆっくりと立ち上がった。


「きょ、恭介……」


忘れかけていた不安が再び胸に広がっていく。
恭介は、シッと短く呟いて人差し指を立てて私を制すると、そのまま玄関に向かっていく。
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