浮気者上司!?に溺愛されてます
そんなことすらおかしい。
恭介の心の中にいる全ての人に嫉妬するなんて、こんなのまるで恋みたいだと思った。


そう自覚して、胸がドキンと大きく鳴った。
それを意識してしまったら、すぐそばで眠っている恭介から目が離せずに、ますます鼓動が騒ぎ出してしまう。


だ、ダメだ。寝なきゃ。
何の為に恭介がここにいてくれてると思ってるの。


自分にそう言い聞かせて、私は再びベッドに身体を横たえた。
そして、ギュッと目を閉じて、なんとか眠りが訪れてくれるのを待とうとした。
その時。


「……眠れない?」


わずかに憚るように控えめな声が響いて、私はビクッと身体を強張らせた。


「怖い? 大丈夫だよ。俺がここにいるから」


更に続く恭介の声に、私は一度グッと声をのんだ後、ゆっくり身体を起こした。
さっきまで真っすぐ前に向けていた顔が、わずかに私を振り返っていた。


「……ごめんなさい」


ただ、それだけを口にした私に、恭介がフッと笑ったのが空気の振動でわかった。


「何謝ってんの」

「わ、私、『もう大丈夫』って言いたかったの。そう出来るって思ってたのに……」

「ああ、だからか。甘すぎる『最後の晩餐』」


少しだけ張りのある声で、恭介がクッと笑った。
バレバレだったか、と思っても、私は今、それを誤魔化そうとはしない。


「……ごめんね、恭介」

「だから、謝るな。俺は嬉しいよ? 少なくとも、今、奏美は何も怖がってないだろ?」

「……うん」
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