浮気者上司!?に溺愛されてます
からかわないで。
そう言って背を向けて逃げようとした私の肩を、一瞬早く課長が掴んだ。
そして、大きく一歩踏み出した至近距離から、グッと顔を覗き込んでくる。


「それなら俺と冒険してみようか」

「え?」


探る目線にドキドキしながら、この人は何を言ってるんだろう、と冷静に考える私もいる。


冒険。私は確かにそう言った。
そしてその真の意味を課長は多分見抜いている。
それなのにこんな提案をする真意が、私には全くわからない。


聞き返す私に、無粋だとでも言いたげに整った綺麗な眉をひそめると、課長は目を細めて形のいい顎を傾けた。


「お望み通り、悪い女にしてやる……ってことだよ」


耳に届いた言葉がとても信じがたくて、私は大きく目を見開いた。
だから、聞き返す間も、現状を把握する余裕もなく……。


「っ……!?」


気づいた時には、唇に温かい温もりを感じていた。
ぼやけて輪郭もわからないほど目の前にある綺麗な顔。
軽く下唇を食まれる感覚に、経験なんかなくても、キスされている、とわかった。
< 11 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop