浮気者上司!?に溺愛されてます
言われて初めて気づいてあわあわと慌てた私に軽く笑いかけて、恭介は先にエレベーターに乗り込んでいった。
そして私はビルのエントランスで五分待ってから、オフィスに辿り着いたわけだけど……。


なんだか、全てが恭介の思うつぼのような気がして、改めて悔しい。
浮気者の最低な上司に恋してしまうなんて、私の一生の恥でしかない。


気づきたくなかった。
自覚したくなかった。


人の道に背いた不道徳な恋なんかまっぴらだ。
そりゃ……もしも私に年齢相応にいくらかの恋愛経験があって、多少の遊びが出来る大人の女だったら、一度や二度は経験があってもいいかもしれない。
実際……大きな声じゃ言えないけど、そういうイケナイ恋の経験がある友人を、私は何人も知ってるから。


だけど私は違う。
『初めて』は全部清く正しく美しくいきたい。
なのに……。


「……あああ~……、もう……」


どうしようもなく歯痒い気分で、私はデスクに顔を突っ伏した。


二十七歳。
今までずっと友達のキューピッド役ばかりで、恋愛において私は道化師でしかなかった。


そりゃ、人並み以上に恋愛願望はある。
酔ってやさぐれて、恭介に聞かれた失言も、きっと心の奥底で抱いていた本心の欠片だと思う。


『いつまでも『いいヤツ』なんてやってらんないのよ! 悪い女になって、冒険したい気持ちくらいあるんだから!!』


だからって……。
こんなの、完全に想定外だ。
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