浮気者上司!?に溺愛されてます
そう思うのに、無事に一人で帰り着いた私を迎えてくれる部屋は、切なくなるくらい、至る所から恭介を感じられた。


たった一晩、ここで一緒に過ごしただけなのに。
狭い私の部屋に恭介の残り香が染み入っているようで、部屋に入っただけで胸がキュンとしてしまう。


「恭介の、バカ……」


昨夜恭介が使ったクッションを抱きしめて、私は床にうずくまった。


あんなにお似合いの奥さんがいるのに、どうして私を惑わせたりするのよ。
『可愛い』なんて言葉で喜ばせて、部下をからかうにもほどがある。


「浮気でしかないんだから、そういうの慣れた人に仕掛けてよ……」


額を膝にくっつけて、そんな憎まれ口をたたく。


免疫ないんだから。本当に初めてなんだから。
そんな私に浮気を仕掛けてからかって遊ぶなんて、恭介は本当に最低で最悪な男だ。


大丈夫。今ならまだ引き返せる。
ちゃんと恭介への想いを断ち切って、明日からでも今まで通りごく普通の上司と部下に戻るべきだ。
昨夜の外泊のことを奥さんに疑われたとしたら、きっと恭介だってそう思ってるに違いない。


明日、ちゃんと恭介に言おう。
自己査定で最低ランクの評価をつけられても全然いいし、どう罵られても構わないから。
だから、もう私を惑わせないで。


私は自分の心にそう言い聞かせて、大きく肩で息をしながら顔を上げた。


なのに、この狭い部屋は残酷なくらい私に恭介の空気を感じさせる。
温かい腕で、優しい声で、ふんわりと抱きしめられているような錯覚に陥りそうで、とても平静じゃいられなかった。
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