浮気者上司!?に溺愛されてます
二晩続けてろくに眠れずぼんやりしたまま支度をして、それでもなんとかオフィスビルに辿り着いた時、時計の針はいつもより十分以上も遅い時間を指し示していた


電車が少し遅れてたら、遅刻スレスレのマズい時間。
さすがにちょっと急ぎ足でエレベーターホールに向かう。


ちょうど出勤時間のピークを越えてしまったせいか、ホールには他に誰もいない。
嫌でも遅刻を意識して、エレベーターを待つわずかな時間にジリジリした。


ポン♪と呑気な電子音を合図にドアが開く。
その前に小走りで移動して、素早く中に乗り込んだ。
そして、階数ボタンを押してからドアを閉めようとした時。


「あ、悪い、ちょっと待って!」


カツカツと踵を打ち鳴らしてホールに駆け込んでくる足音。
かけられた声と同時に、閉まりかけたドアに手がかかった。
私も慌てて『開』ボタンを押し直す。


サンキュ、と短い声がして、再び開いたドアから中に乗り込んでくる姿を何気なく見上げて、私は一瞬本気で息が止まるかと思った。


「あれ。偶然。おはよう、奏美」


あっさりと私を名前で呼んで、ニコッと魅惑的に微笑むのは、もちろん恭介だ。
恭介の言う偶然に、心のどこかで『運命かも』なんて考える痛い自分をどうにか抑え込んで、私は目線を落として同じ挨拶を繰り出した。
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