浮気者上司!?に溺愛されてます
「今日はいつもより遅いんだな」


ドアが閉まるのを眺めながら、恭介が私にそう言った。


「……恭介こそ」

「俺は単純にちょっと寝坊。……って、そうだ。大丈夫だろうと思ってるけど、昨夜何もなかったろ?」


少しだけ声を低めて探るように訊ねる恭介に、私はチラッと目だけを動かした。
二人きりなのをいいことに、恭介は壁に凭れかかって、腕組みしながら上目遣いで私を見つめている。


そんな恭介から目を逸らして、うん、と返事をしながらも、身体の脇に垂らした手をギュッと握りしめた。


「……どうしてそう言い切れたの?」


今度は私から訊ねると、内緒、と呟いて、恭介はわずかに肩を竦ませる。
微妙に誤魔化されたようで、本当は強く聞き出したい気分だった。
だけど今、私はグッと踏み止まる。


「そ、そっか。それなら、もう恭介に護衛してもらう必要もないってことだよね」


勢いよく顔を上げてテンションを高めて言いながら、目線を頭上の階数表示に走らせた。
は?と恭介の短い声が耳に届く。


「あ……まあ……。護衛、ってほどはしなくていいかもしれないけど」

「じゃ、私は大丈夫だから。だから……もう……」


緊張とは違うドキドキで、胸が苦しくてキュッと痛んだ。
それでも、昨夜寝不足になってまで散々考えた決心を口に出そうとして、私は一度大きく息を吸った。
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