浮気者上司!?に溺愛されてます
瞳いっぱいに涙を湛えて、零れないように瞬きすら最小限に堪えて、私はただ一点を見据えながら足を動かした。


「……お~い。水野、水野サン。お前どこから電車乗る気だ? 駅、とっくに通り過ぎたぞ」


私の数歩後ろ、微妙な間隔を保ったまま、桜庭課長がついてくる。


なんでついてくるの!? そっちこそさっさと道を逸れて駅に向かってくれればいいのに。
でも、振り返ってそう叫んだらそのまま泣き出しそうだったから、私は無言のままイノシシのように先に急ぐ。


脇目も振らずに、オフィス街の整備された区画をひたすらまっすぐ歩いて、一体どのくらい経ったんだろう。


「……うっ……」


さすがにもう限界だ。
ヒールで豪快にアスファルトを闊歩したせいで、爪先の感覚がわからなくなるほど足が痛い。
その上、もう我慢できなくてバチッと大きく瞬きしてしまう。
その途端、私の頬を一粒涙が零れた。
そして、その後は堰を切ったように溢れ出してくる。


さすがにこのまま歩き続けられず、私は立ち止まってしまった。
そして、桜庭課長に追いつかれてしまう。


やっと止まったか、と呟きながら私の隣に並んで。
そこから身体を屈めてそおおっと私を覗き込んでくる。
そして、ぼやける視界でもわかるくらいギョッとした顔をした。


「なっ、なんだなんだ!? お前、何泣いてるんだ!?」


途端に課長が慌てた声を上げた。
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