浮気者上司!?に溺愛されてます
もしも本当に奥さんと別れてしまうのなら。
『独身』に戻るのならば。
浮気な恋を本気の恋に変えられるとしたら。
それを拒む必要が、いったいどこにあるというの?


胸に漬物石でも乗っかってるように、重苦しい気分になる。
まるで悪女のようにしたたかなことをチラッとでも考えた自分がとても怖くなった。


私、何を考えてるのよ。
恭介が離婚したとしても、そこに流されるわけにいかないじゃない。


人一人を不幸にして得た恋で、幸せになんかなれっこない。
少なくとも私はそう考える女だ。


好きになった人に好きと言ってもらえる最高の幸せ。
そこに曇りがあるのを知ったまま、貪欲に突き進むことなんか出来るわけない。
出来っこないじゃない。


私がしたいのは、普通でいいから穏やかで幸せな恋だ。


グッと唇を噛みしめて、一度大きく息を吸ってから、私は恭介のメールに返信した。


『無理です。もう誘わないでください』


短いメールに、素っ気ない短い返信。
ほんの十数秒で、恭介からすぐにメールが来た。


『じゃあ、明日』

『誘わないで、って言ってるんです』

『なんで? なんか問題あるの?』

『大ありじゃないですか。どうしてそれがわからないんですか』


このわからず屋っ……!と心の中で叫んで、キーボードを叩きつけるようにして最後のメールを送った。
一瞬の間の後、恭介が肩越しにチラッと私に視線を向けるのを感じた。
その視線を完全に無視して、トートバックに歯磨きセットと化粧ポーチを詰めて、恭介から逃げるように席を立った。
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