浮気者上司!?に溺愛されてます
この最悪な状況で、私に出来ることは何か。
知られているなら、逃げ隠れせずに奥さんと会って話をしないと、と思った。
私の気持ちも全部含めて、包み隠さず話してしまった方がいい、と判断した。


何が正解か、なんてわからない。
だけどこうなった以上、誠意ある姿勢でぶつかって、誤解を正すのが先決だ。


多分これが私に出来る精一杯。
恭介と奥さんが別れることなんか望んでいない。
こんなことに巻き込まれるのは、正直言って困るし戸惑う。


そう、困るのは恭介だけじゃない。私にも傷がつく。
もしも変な風に噂になったりしたら、私だって会社に居づらくなるだろう。
いいとこ僻地に異動、もしかしたら自主退職……なんて憂き目を見るかもしれない。
そんなの、本気でシャレにならない。


私はただ、普通に恋したかっただけだ。
いい子になって逃げ出したいわけじゃない。


大人なんだから冷静に理性的に考えれば、こうするしかないはずだと思う。
どう考えてみても、恭介にとっても私にとっても、この状態を続けていい結果なんかないはずだ。


半分以上自分にそう言い聞かせるように暗示をかけて、私は意を決して『秘書室・藤川紫乃』さんの内線番号を押した。


たった二回のコールを聞く間だけで、鼓動が極限まで飛び跳ねるような気がした。
そして、まるでウグイス嬢のような、社会人の模範的電話応対を受ける。


ひっくり返りそうな声で名前を名乗ってから、カラカラに乾いた喉に引っかかりを感じながら『藤川さんをお願いします』と告げて……。


戻って来た返事に、一瞬絶句した。


『藤川は、一年前から療養休暇取得中ですが……』


聞き返した私以上に困惑した声を聞いて、私は呆然としながら電話を切った。
そして、誰とも繋がっていないPHSを、ただぼんやりと見つめるのだった。
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