浮気者上司!?に溺愛されてます
同じ社内にいない以上、私は相手が次に接触してくるのを待つだけだ。
送られてきたメールに『一度お会いして話をさせてください』と返信してリアクションを待ったけれど、結局その日業務時間を過ぎても藤川さんからの返信はなかった。


溜め息をついて、なんとなく俯き加減のまま、帰路についた。
下ばかり見つめたまま何度か行き交う人にぶつかって、とても迷惑そうな視線を受けて初めて顔を上げてられない自分に気づいた。


何やってるんだろう、私。
思い起こせば、お昼から戻った後、今まで何をしていたか、何を見ていたかも記憶になかった。


午後の半日の間、考えていたのは恭介と奥さんのこと。そして、自分の保身。


どうしたら全てが全て丸く収まるか、ずっとそんなことを考えていたのに、結論までたどり着けない。
ううん。本当は、答えなんかとっくの昔にわかりきっているんだ。


私と恭介は今後一切の関わりを絶って、恭介は奥さんとの結婚生活を真面目に送ってくれればいい。
私は恭介を忘れればいい。
それだけの、本当に簡単なことだと思うのに、何故だか納得出来ずにいる。


「……きっと……私がこんなんだから、今まで誰とも恋できなかったんだろうなあ……」


顔を上げて自嘲気味に呟きながら、私は都会の真っ暗な空を見上げた。


ズキン、と胸が痛んだ。
なんだろう、この突き刺すような痛みは。苦しみは。
私は胸にグッと手を当てて、再び俯いて唇を噛んだ。


そのまま、前に突出するようにひたすら歩き始める。
今の私、誰から見ても超不審OLだと思う。


それでもそうしていないと声を上げて泣いてしまいそうで、そして、どうして泣きたいのか自分でもよくわからなくて……。


『歩く』『帰る』という行動に集中することで、余計なことを考えそうになる自分をなんとか持ち堪えていた。
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