浮気者上司!?に溺愛されてます
あんな風に『好きだ』なんて言われたら、免疫ない私はどうしたって惑わされる。
恭介が分けてくれた『本気』に身を委ねてしまいたくなる。


「……ほんと、ズルくて最低な男」


心から恭介を断ち切るように呟いて、開いたドアから廊下に足を踏み出した。
そして、すぐにビクッと身体を震わせて立ち止まった。
空気の振動で伝わったかのように、私の部屋の前に立っていた恭介がゆっくり目を上げる。


「お帰り。良かった。無事だったか」


大丈夫だと言って安心させたのは恭介の方なのに、まだ私を心配してここまで来てくれたのか。
そう考えたら、なんとも言えない想いがこみ上げて来て、私は即座に返事も出来ない。


恭介と距離を置いたままその場に立ち尽くす私をジッと眺めて、恭介はゆっくり姿勢を正した。


「……なあ。やっぱり俺、どうしても納得出来ないんだけど」


そんな言葉と同時に、カツッと踵を鳴らして一歩私に踏み込む恭介に、ただ肩を強張らせた。
そんな私に、恭介は軽く肩を竦めた。


「何をどう思い起こしても、奏美に嫌われてるとは思えない」


そう言いながら、恭介は左腕の小脇に抱えたカバンを軽く持ち直した。


そんな恭介から目線を逸らしながら、私は大股で部屋の前に移動して、バッグから部屋の鍵を取り出す。
ドキドキと胸の鼓動が高鳴っていて、鍵を挿し込む手が震える。
ようやくカチッと反応を感じてホッとした瞬間、ドアを開ける私の手に、恭介が背後から自分の手を重ねてきた。


「……だから……そろそろ本気出していい?」


背後の気配が動いて、そんな言葉を耳元で感じた。
ハッとして振り返るよりも早く、恭介は私の手ごとドアノブを動かして、玄関に押し入るように身を滑らせて、素早くドアを閉めていた。
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