浮気者上司!?に溺愛されてます
確かに課長の言う通り、週末とは言えオフィス街で私たちは相当目立っている。
チラチラ向けられる好奇の視線とヒソヒソとひそめる声が、嫌でも耳についた。


「俺はいいけど、水野はこれ以上痛い子になりたくないだろ? やっぱり根は真面目ないい子なんだろうし」


宥めるような声に、一瞬フッと心が緩んだ。


桜庭課長が言う『真面目ないい子』がどういう意味を匂わしているのか。
真剣な褒め言葉にも聞こえるし、からかって笑ってるだけにも聞こえる。


ううん、もうこの際どういう意味だってかまわない。
とにかくとにかく……!!
桜庭課長にとっては軽い冗談かもしれないけど、私はさっきのアレが初めてだったの!!
正真正銘、生まれて初めてのキスだったの!!


路地裏に引き込まれて、街灯が当たらない薄暗く狭い空間で、課長はやっと私の腕を離してくれた。
そして、ハアッと肩で息をすると、涙でグチャグチャの顔を俯いて隠す私を見下ろしているのがわかる。


「あんな痛いこと平気で叫ぶくらいだから、相当奔放か化石並みにウブかどっちか、って思ってたけど」


自分の言葉に半信半疑のような声色で、桜庭課長がそう呟いた。


「まさかの化石か。もしかして、キスも初めてだったとか?」

「っ……」


呆れたような声でズケズケと言い当てられて、もう私は否定する余裕すらなかった。
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