浮気者上司!?に溺愛されてます
どうやら、席をキープしてからエントランスまで来ていたらしい。
テーブルの上には、ソフトカバーの本が途中のページを開いたまま裏返して置かれていた。


近づいてきたウェイターにカフェオレを二つ注文してから、紫乃さんは立ち尽くしている私に椅子を勧めてくれた。
私はほんの少し躊躇った後、意を決して紫乃さんに頭を下げた。


「あのっ……。申し訳ありません」


いきなり謝る私に、紫乃さんは軽く眉を寄せた。


「いきなり何? それとも……話なんかしなくても、全面的に自分に非があると自覚してるのかしら」


腕組みをして、細い足を組んで、紫乃さんが私を睨み上げた。
美人の怒った顔というのは、竦み上がるくらい迫力がある。


「もう謝り倒すしかないって感じね。……そう、昨夜、恭介さんに抱かれたの?」

「っ……」


利用客が少ないとはいえ、周りを気にしなきゃいけない話題だ。
怯む様子もなく淡々と訊ねる紫乃さんに、私の足の方が震え出す。


そして、私が黙っていても、答えは紫乃さんに伝わってしまったようだ。
ハアッと深い溜め息をつくと、椅子に背を預けて、わずかに狭い空を見上げた。


「座ったらどう」


有無を言わせない命令のような気がして、私は唇を噛んで言われるがままに腰を下ろした。
そのタイミングで、店員がカフェオレを運んで来る。
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