浮気者上司!?に溺愛されてます
日暮れの早い秋の空。
もうグレーを纏った小さな空には、線のような三日月が顔を出している。


筋のように地上に降りてくる繊細な月明かりと、カフェの間接照明に照らされているせいで、紫乃さんの表情は美しい鬼のようにミステリアスで、心にジワジワと得体のしれない恐れが湧き上がってくる。


「そうよね。浮気するような男には、天誅が下ればいいんだわ」


歪む唇から紡がれる物騒な言葉に、嫌でも焦って慌てる。


「紫乃さん、あのっ……」


あまりに得体の知れない不安に身を乗り出した時、紫乃さんはフッとそれまでの妖しさを内に潜めて、テーブルの上の伝票を持って立ち上がった。


「大丈夫よ、水野さん。痛い目見るのは恭介さんだけで十分なんだから、あの写真をばら撒くようなセコい真似はしないから」


私の横を通り過ぎながら、ほんのわずかに身を屈めて、紫乃さんが私の肩をポンと叩いた。


何故かよくわからないけど、紫乃さんは悟りの極致に達してしまったのか、狙いの照準を私から逸らしてしまったみたいだ。
私個人としてはありがたい限りだけど、その分全ての憎しみが恭介に向いてしまってる。
紫乃さんがどういう人かよくわからないからこそ、行動が読めなくて怖くて堪らない。


「ちょっ、ちょっと待って！」


レジに向かう紫乃さんを、慌てて振り返った。


「恭介に……何をしようというんですかっ！？」
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