浮気者上司!?に溺愛されてます
その背に必死に浴びせかけた私の声に、紫乃さんはカツッと踵を鳴らして立ち止まった。
そして、さっきまでの雰囲気を完全に搔き消して、フッと口元で笑った。


「水野さんには関係ないわ。これは私と恭介さんの問題よ」


紫乃さんの怒りが私から逸れてしまったのなら、それはそうかもしれないけど。
だからって納得していい問題じゃないよね!?


「腹は立つけどまあいいわ。気が済むまでいたぶって、飽きたら夜道に全裸で転がしてやる」


ヒラヒラッと手を振る紫乃さんを、半分以上呆然として見送った。


なんだか全然意味不明だけど、紫乃さんにとっての『敵』は浮気相手の私じゃなく、浮気者旦那の恭介オンリーに変化したみたいだ。


と言うか、最後のアレはタチの悪いブラックジョークと捉えても、恭介が何をされるのか、どうしようもなく心配だ。
これは……私、恭介を家に帰してはいけないんじゃない!?


紫乃さんが『気の済むまで人をいたぶる』時、どんな手段をとる人間か、私には全然わからないけど。
冷静に考えて、奥さんが何をしでかすかわからない以上、放っておくなんて鬼の所業だ。


なんか、いろいろとアレだけど。
恭介と紫乃さんの関係にヒビを入れた原因の一端は、確かに私だ。
それなら、身の危険に晒されている恭介を守るのは、絶対絶対私の役目だ。
でも、どうやって?
一日二日ならともかく、ずっと家に帰さないって、どうやって?


現実が怒涛のように降りかかってくる感覚に、思わずクラッと眩暈を起こしかけながら、私は今後どうすべきか、悶々と頭を悩ませるのだった。
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