浮気者上司!?に溺愛されてます
ビルの総合エントランスに戻って、待つこと二時間ほど……。
ようやく出てきて驚きに目を丸くした恭介を捕まえてその手を引いて、私は一心不乱に歩いた。


穏便な拉致計画を遂行した私は、きょとんと首を傾げている恭介に、紫乃さんと話したことを概略だけ報告した。
歩くスピードを緩めないまま、ただひたすら説明役に回り、完全に私の方は息が上がっている。
それでも恭介は涼しい顔だ。


「ふ~ん。俺の身を心配して、ねえ……」


私に手を引っ張られて歩きながら、恭介はプッと吹き出して笑った。


「奏美がそこまで心配してくれるのは、男冥利に尽きるが……。いくらなんでも、黙って全裸で転がされるような男じゃないぞ、俺は」


私が大事なとこだけ掻い摘んで説明したせいか。
恭介の方は全然緊迫感もなく、笑いごとじゃないオチがツボにはまっているらしい。


「誰か別の人間が転がってるとこ想像すると笑えるけどな。実際体験したいとは、逆立ちしても思えん」


そう言いながらクスクス笑う恭介。


「当たり前でしょ。そんなの公然わいせつ罪で捕まるし」


呑気な恭介に本気で焦る私。


「だよな。っつーか、悪趣味な脅しだな。もっと他にいろいろやり方あるだろうが」


――なんだろう、この奇妙な温度差は。


こっちが真剣なだけに、さすがにイライラしてくる。
< 162 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop