浮気者上司!?に溺愛されてます
「……なんだ。二度目でもうそんな顔出来るんだ」


そう言って意地悪に微笑む課長から、私は悔しいけれど目を離せない。


そんな、って、どんな?
そう訊ねたいのに、私は力を失っていて、ただぼんやりと課長の濡れた唇を目で追ってしまう。
桜庭課長は、私の心を見透かすように、ニヤッと口角を上げて笑った。


「……『もっと』って、ねだるような顔」


そんな言葉を吐息交じりに耳元で囁かれて、ドック~ンと鼓動が一度大きくリズムを狂わせた。


「なっ……!!」


カアッと頬が熱くなるのを感じる。
いや、頬だけじゃない。
もう身体中至るところで血管が脈動していて、私は呼吸すらままならない。


そんな私を更に面白そうに見つめて、課長は背を屈めて私の耳元に唇を寄せた。


「いいよ。ちょっと早いけど、この流れで二人になれるとこ行くか……?」


耳にフッと息を吹きかけられてゾクッとしながらも、私は慌てて飛びのくように逃げた。
大きく距離を置いて警戒心を露わにする私に、桜庭課長はキョトンと目を丸くして、ツボにはまったかのようにクックッと肩を揺らして笑った。


「ま、それが正しい反応か。ファーストキスの直後にロストバージンとか、さすがにちょっと展開が早すぎる。その反応が模範解答だよ、水野」


何が愉快なのか、全身を揺らして笑い続けながら、桜庭課長はフッと私に左手を伸ばした。
そして肩を強張らせる私の頭を大きな手でポンポンと叩く。


「まあ、ボチボチ行こうや。また来週な」


私の返事を聞く気もない素振りでそう言って、あっさりと手を離す桜庭課長を、私はただ茫然と眺めてしまう。
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