浮気者上司!?に溺愛されてます
その時。


「お待たせ。高津、悪かったな、変なこと頼んで」


出入口からこっちに向かってくる恭介の姿を見つけて、私は一瞬身体を硬直させた。
声をかけられた高津は、ニコニコしている。


「全然。水野とメシくらい、お安い御用です」

「ああ、そうだよな。今までもしょっちゅうだったって聞いてるし」

「……課長、俺に妬かないでくださいよ?」


わずかに引き攣る高津を横目に、恭介はフンと鼻を鳴らした。


「まあ、助かったから今は許す」

「……課長って意外と情が深いんですね」

「お前も見倣え。惚れた女は大事に扱わないと」


あまりに普通の顔でサラッと言うから、からかった高津の方が口ごもった。
そしてただ呆然と聞いていた私も、我に返ると同時に顔から火を吹きそうになる。


「課長っ!!」


止めようと、咎めるような声を上げた私に肩を竦めると、恭介はすっと姿勢を正して、財布からスマートに紙幣を出して高津の前に滑らせた。


「あ、課長、いいですよ」

「助かった。サンキュ」


そう言われては、高津もそれ以上拒まない。
ごちそうさまです、と返す声を聞きながら、私は恭介から連行されるようにお店を出で、オフィスビルを後にした。
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