浮気者上司!?に溺愛されてます
ほんの少し意識して間隔を開けて隣を歩く。
冷たい夜風が一瞬強く吹いて、私は亀のように首を縮めて暖を取った。
そしてそのまま、唇を尖らせる。


「もうっ、恭介! ……ちょっとは周りを気にしてよ」


そう文句を言うと、ん?と相変わらず緩い返事が降ってきた。


「恭介だって、社内で噂になったら困るでしょ」

「なんて?」

「だから……遊び人、とか、浮気者、とか……」


さすがに声をひそめながら呟くと、恭介はわずかに肩を竦めた。


「そりゃ、身に覚えのない陰口はムカつく」


まずはこの辺から意識改革が必要なのかもしれない。


私はわざと大きく深い溜め息をついて話題を引き取ると、チラッと恭介の横顔を見上げた。


『不倫だけど、私たちは真剣に愛し合ってるんです!』なんて、この恋を正当化しようとは思ってない。
認められる関係じゃないってことも、重々承知だ。


それでも、この恋心だけは誰にも否定されたくない。
だって、そばにいるだけでこんなにドキドキする。
真綿で包み込むように大事にされてるってわかってて、はぐらかせるほど天邪鬼のつもりはない。


「……好き」


見つめていたら切なくなって、私は無意識にそう呟いていた。


「え?」


いい感じに掠れて消え入ってくれたおかげで、恭介の耳には届かなかったようだ。
我に返ると照れ臭くて、私は思いきり首を横に振って、恥ずかしすぎる独り言を誤魔化した。
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