浮気者上司!?に溺愛されてます
実際のところ、上司と二人でランチに行くくらい、社会人ならごく当たり前のお付き合いだ。


私だって高津や他の男友達と、私の方に下心がある状態でランチも飲みも行ったし、既婚者上司には仕事の相談をしたこともある。
だから、桜庭課長だけに警戒心を露わにするのは意識しすぎな気がして、私は大人しく外に連れ出された。


途中、他部署の女子社員から羨ましそうな嫉妬の視線を感じはしたけど、誰もが当たり前に上司と部下の普通のランチと思っているのがよくわかる。
ちゃんとランチの席で課長の提案をお断りすれば、何も嘘はないのだから堂々としていればいい。


自分を鼓舞するようにギュッと手を握りしめてから、私は隣に並ぶ桜庭課長の横顔を見つめた。
フロアマップの前に立って、仕事中よりも真剣な目でお店を吟味している。


こうして見ると、ほんと悔しいくらいイケメンだ。
この人にキスされたんだと思うと、ドキドキして舞い上がりそうになってしまう。
しかも恋人だなんて。


もし桜庭課長が独身だったなら、間違いなく、私は迷わずOKしたはずだ。
だからこそ、ほんの少し残念、なんて邪なことを考えた時、水野、といきなり声を掛けられて飛び上がりそうになった。


「は、はいっ!」


声をひっくり返しながら挙動不振な返事をする私に、桜庭課長は訝しげに首を傾げた。


「何食べたい?って聞こうとしただけだけど。ってか、何ボーッとしてんの」

「あ、いや、えっと……」


眉を寄せてググッと顔を覗き込まれて、私は慌てて顔を背けると、課長の横から身を乗り出してフロアマップに目をやった。
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