浮気者上司!?に溺愛されてます
オーダーして物の五分で運ばれてきた定食を前に、私はピッと背筋を伸ばして大きく息を吸った。
私の向かい側の席では、妙にお行儀よく両手を合わせて「いただきます」と言った桜庭課長が箸を持ち上げていた。


「あ、あの、課長っ……」


膝にしっかり手を置いて少しだけ身を乗り出した私は、途端にジロッと涼しい瞳で睨まれた。
一瞬にして竦み上がって、身体を縮こませる。


「……恭介……」


諦めてそう言い直すと、桜庭課長……恭介はニッコリと人の好さそうな笑みを私に向けた。


「そうそう。やっぱり素直な女は可愛いね」

「っ……」


だ、だからそういう歯が浮きそうなセリフを息をするように言わないでほしい。
その程度でも頬が熱くなるのを誤魔化せない私は、強気の反論を出来なくなってしまう。


それでなくても……店内の他の女性客の視線を、さっきからヒシヒシと感じて居心地悪いのに。
とは言え、その中心にいるのはもちろんかちょ……恭介の方で、私はその巻き添えを食っているだけなのだけど。


高津と一緒に来た時には全く感じなかったこの感覚。
私は少し俯き加減の角度から、恭介を上目遣いに窺い見た。


ジューシーがこんもり盛られたお茶碗を左手に持って、子供のしつけのお手本になるくらい美しい箸の持ち方で、恭介は既にさっさと食事を開始していた。


こうして真正面で食べる姿を見るのは初めてだけど、恭介は本当に食べ方が綺麗だ。
お上品、というのとはちょっと違う。
もちろん男っぽく旺盛な食欲を見せているけれど、なんというか……仕草の一つ一つがとても洗練されていて、嫌でも目を奪われてしまう。
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