浮気者上司!?に溺愛されてます
結局何も言えずに黙って俯く私に、恭介がフッと笑ったのがわかった。


「早く自覚しろ。……それで、こういう時俺が何を求めてるのか、察してくれると嬉しいんだけど」

「えっ……」


思わず顔を上げた瞬間、恭介が優しく私の頭を撫でた。
行動はともかく、向けられる瞳の温かさに、ドキンと胸が鳴ってしまうのを感じた。


「仕事、戻るぞ」


恭介はそう言っていつもと変わらないちょっと緩い空気を簡単に作り出すと、私の横をスッと通り過ぎて、ドアに向かって歩いていく。
私はその背中を、バクバク騒ぐ胸を必死になって抑えながら見送って、一度宙を仰いで大きな息を吐いた。


『これでもかってくらい可愛がって、愛してやるから』


つい数時間前に恭介が私に言ったこと。
私じゃなくても女心を揺さぶる言葉だと思うし、それが本当ならどんなに幸せだろう。
どんなに甘い気分になれるんだろう。
確かにそう思ったけれど……。


恭介は結婚してるんだから。奥さんがいるんだから。
どんなに甘い言葉でも、それが本気になることはない。
恭介にとって、私はただの浮気で、遊び。
しかも、私はただ脅されているだけのことだ。


そう自分に言い聞かせて、私は一度大きく息を吸った。


「……揺れたりしないんだから。絶対に」


浮気者上司が片手間に始めた『恋』が、本物になるわけがない。
本当の恋というのは、お互いの本気から生まれるものでしかない。
いくら恋愛経験ナシの私でも、そう思っていれば簡単に流されたりしない。


これはただの疑似恋愛。
ううん、恋と呼ぶべきものでもない。
恭介の気が済んでくれれば、すぐにでも解消すべき非道徳的な関係。


なのに……『嫉妬した』って。
浮気のくせに、そんなこと言わないで。
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