浮気者上司!?に溺愛されてます
反射的にビクッと身体を震わせると、恭介がクスクス含むような笑い声を上げた。


「……冗談だよ。お前、ほんと可愛い。こんな反応されたら、大事にするしか出来ないだろうが」


恭介の声が耳を掠める。
吐息が首筋にかかってくすぐったい。
それを感じないように、必死に顔を背けるしかなかったけど。


「なあ、今夜一緒に食事行こう」


ようやく腕の力を解いて私を開放しながら、恭介がそう言った。
私は飛びのくように恭介から距離を置いて、その言葉に思わず振り返った。


恭介はテーブルから腰を浮かせて、しっかり背筋を伸ばして立っていた。
緩めていたネクタイを、キュッと締め直す姿がとても様になっている。


「だ、ダメです」

「え?」


即答で断る私に、恭介はきょとんと目を丸くした。
そんな恭介に背を向けて、


「合コンなんです。今夜」


言わなくていい余計な一言まで告げて、私はあくまで恭介との距離を意識づける。
それを聞いて、はあ?と恭介が声を上げた。


「なんだよ、それ。合コンって」

「出会いを目的にして、男女同数ずつで行う飲み会です」

「んなこと知ってるよ。俺が言いたいのは、なんでお前が行く意味があるんだってことで……」

「そりゃっ! 出会いを求めてるに決まってるじゃないですかっ」


そう声を張ってから、ドアに向かって大きく歩き出す。
ドアの前で一度恭介を振り返って、頭を下げようとして。


「……っ……」


恭介がすごく不機嫌な顔を私から背けて立ち尽くしているのを見てしまった。
そんな姿に妙にドキドキして、私は小会議室から飛び出したのだった。
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