浮気者上司!?に溺愛されてます
だって、今の聞かれたよねっ!?
そうわかっているのに、所属部署の上司と二人でエレベーターに乗るなんて、気まずいを通り越して息が詰まる。


途端に『ブーッ』とブザーが鳴って、私は身体を強張らせた。
開きっぱなしの状態のドアが、私を催促している。
その音に眉間の皺を深めて、「ほら早く」と桜庭課長が私を急かした。


「は、はいっ……」


結局私も諦めて中に乗り込んだ。
そして、ドアが閉まる。


ドアの両脇に分かれて立つ桜庭課長の横顔を、私はビクビクしながら盗み見た。
仕事中と変わらない涼しい顔。
かと言って聞かれていないわけではないと思う。


このビルのオフィスフロアにテナントとして入っている大手重工業メーカーが私の勤務先だ。
そして彼……桜庭恭介(さくらばきょうすけ)は、私が所属する宇宙開発部第一課の最年少課長だ。


若干三十一歳。
たった四年先輩なだけなのにこの破格の人事待遇は、彼の前所属部署、海外営業部での実績によるものだと聞いた。


社内でも語り継がれる武勇伝、入社二年目での社長表彰、営業成績四年連続トップ等々。
それは他部署にいる私でも耳にしていた輝かしい戦績だ。


一年前、社史に残る最年少課長に抜擢されてうちの部に移動してくると聞いた時は、有能でやり手の課長だからすごく厳しい人だろう、と会う前から緊張した。


ところが、実物は思いの外いい加減……というか適当な人で、部下になる私たちの方が戸惑ったものだ。
< 7 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop