浮気者上司!?に溺愛されてます
「俺が相手じゃ、痛い思いしかしないって、そういうこと?」


向かい側の書棚に背を預けて、小脇にファイルを抱えた格好で恭介がそう質問を重ねた。
それに対して、私は一瞬黙り込んだ後、ゆっくり恭介を見上げた。


「その通りですけど」

「なんで」

「なんでって……」


どうしてこの人にはわからないんだろう。
私が恭介を拒む理由なんて、普通誰にも共通するものだと思う。


「……それがわからないなら、桜庭課長は最低の人でなしです。……私をバカにしてる」


そう言って、見上げる瞳に力をこめた。
そんな私に、恭介が眉間に皺を寄せた。


「そこまで言われなきゃいけない理由が、よくわかんないんだけど」


まだ言うか、と呆れて溜め息をつきたい気分になって、私は恭介から目を逸らした。


「桜庭課長も知ってる通り、私は恋を知りません」


大きく息を吸って、聞き分けのない子供を諭すような気分になって、私は静かにそう呟いた。


「これでも大事にしたいんです。興味本位の視線なんか受けずに、胸張ってお日さまの下を、手を繋いで歩ける人と大事にゆっくり恋をしたいんです」


そう、この言葉に嘘はない。
恭介と一緒じゃ、無駄で無意味な視線を浴びるし、何より……私は自分に胸を張れない。


何も間違ったことは言っていない。
私が恭介と恋が出来ない理由は、これだけ聞けば十分だと思う。
なのに……。
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