浮気者上司!?に溺愛されてます
ドキンドキンと胸が高鳴る。
この体勢から……恭介の手に導かれたりしたら、キスしてしまいそうだ、と思った。
人違いで暴力を振るってしまった手前、きっと私、今は恭介を強く拒めないだろう。


そんな言い訳をするくらい、私は恭介の手を意識して、そして……ほんのちょっと期待もあったのかもしれない。
どれくらいの沈黙の後か、フッと目を伏せた恭介が私から手を引っ込めてゆっくり身体を起こした時、がっかりした気持ちを心の中に見つけてしまったから。


「ん、もう大丈夫そうかな」


そう言って立ち上がる恭介をぼんやり見上げると、小さな笑い声が降ってきた。


「大丈夫? 奏美。立てるか?」


そう言って差し伸べてくれる手にほとんど条件反射で掴まると、グイッと力がこもって、私は恭介の前に立たされていた。


「あ、あの……」


なんだか今、自分がすごく恥ずかしい。
行動も仕草も言葉も気持ちも、恭介の前で痛すぎて、私はまっすぐ恭介を見ることができない。


「ホッとして和んでる場合じゃないんだよな。奏美、お前の後尾けてたのって、どんなヤツだった?」


軽く首を傾けながらたんこぶを摩って、恭介は顔をしかめながら私にそう訊ねてきた。
その言葉に、私もハッと我に返る。
< 84 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop