浮気者上司!?に溺愛されてます
そうだった。
ストーカーは恭介じゃなかったのだから、他に犯人がいることは確実なんだ。


ゾッとする気持ちを隠せなかったけど、出来るだけ落ち着いて恭介に私が見た姿を説明しようとした。
なのに残念なことに、私が見たのは『人物』の特徴ではなく、見た目、雰囲気だけだった。
しかも性別すらわからないとなると、恭介も難しい顔をして考え込んだ。
そして、ちょっとお邪魔、と断ってから、奥の部屋に向かって歩いていく。


「俺がぶっ倒れてから、どのくらい時間経った?」


なんだかちょっといつもと雰囲気が違う。
眉間に皺を寄せる表情は、真剣そのもの。


こんな表情も……私のため……?
自分に都合よく解釈して、心がほんのり温かくなってしまう自分を意識して、私は慌てて恭介から目を逸らした。


「それほど長くないと思う……。十分くらいじゃないかな」


腕時計で確認してから返事をすると、ふーん、と恭介の声が聞こえた。


「ってことは……まだ近くにいる可能性もあるか」


窓辺に歩み寄ってそう呟く。
思わず身体を強張らせて、カーテンに手をかける恭介を呼んで止めた。


「ダメ……こっち見てたりしたら……」


私はその場に凍り付いたように立ち尽くして、ただぶんぶんと首を横に振ったけれど、恭介は唇に人差し指を当てて、シッと軽く私を制した。
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