浮気者上司!?に溺愛されてます
「やっと気づいたか、ボケ」


クックッと肩を揺らして笑う意地悪な声に、私はただ茫然とその横顔を見つめた。


「な、何してるんですかっ」


急いでグランドフロアのボタンを押そうとした手を、ヌッと伸びてきた手で止められた。
いきなり手首を掴まれて、この程度でも免疫のない私はただドキドキしてしまう。


「意外過ぎて驚いた。協調性ハイレベルの真面目ないい子って思ってたけど。……水野、さっきの、本気?」


一歩近づきながら首を傾げるその仕草に、私はただ鼓動を騒がせるばかりだ。


やっぱり聞かれてた。
適当な言い訳をしてさっさとエレベーターから降りることも出来るのに、なぜか私は動けない。


「さ、さっきのって……」


背筋に嫌な汗が伝うのを感じた。
だけど、ただでさえ色気のある唇の端を持ち上げて『ニヤッ』と笑われたら、もうどうしていいかわからなくなる。


「冒険したい、って」


クスッと意地悪に歪む口元から目が離せない。
気づけばいつの間にか距離は狭められて、私はエレベーターの角に追い詰められて、肩を竦ませるしかない状況だ。


「い、いつもの課長らしく、聞き流してください。適当に、興味なさそうに、『いいんじゃん? それで』って」


必死に繰り出した私の言葉に、桜庭課長は一瞬きょとんと目を丸くした。


「それで、黙って承認印押せってか?」

「そうそう、その通りです!」
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