月はもう沈んでいる。

「朔! 今なんか通った! キツネかなぁ!?」

「いるわけねえべやぁ~」

「追いかけんべ!」

おいマジか。


脱力している隙に陽は正体不明のそれを暴こうと走り出した。どうせすぐ別のものに興味を持っていかれるくせに。


誘いに乗った俺も大概だけど、陽の性格上、今夜は特別振り回されるんだから、ため息のひとつもつきたくなる。


「何やってんだか……」


ぼそりと落とした言葉は吐息の白にかすんで、はしゃぐ陽には届かない。


どんどん小さくなるその姿に仕方なく立ち上がり、何気なく、ゆらゆらと水面に映る半月を見遣った。


あれが消えたら、少しは実感すんのかね。
しなくたって卒業することに変わりはないんだけど。


「1年ってはえーなー……」


すぐそこまで迫っている未来に、俺はどれだけのものを持っていけるだろう。



プールを後にし、どこへ向かったのかと探せば、陽は格好のサボり場になっている校舎裏でひとり楽しんでいた。


「朔っ! 見らいって! いきなし懐くね!?」


吸い殻を踏まないように注視していた俺はいつもこうして急かされる。


上げた視線の先には、いつから誰が書いたかも測れない無数の落書きがあった。

腰を落とし、陽と並んで壁に視線を巡らせる。誰かと誰かの相合傘。それに茶々を入れる言葉。なんでか家系図に進化している相合傘もあれば、想いをぶつけている匿名スペースもあった。
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