月はもう沈んでいる。
「みんな暇だな」
「うはは。身長まで記録してる奴いる」
「俺も残しとけばよかったなー」
「残すほど伸びてねえべ」
「……しずねー」
ぷっと笑われ、ぐしゃりと髪を撫でつけた俺は適当に視線を泳がせた。
≪クソ田舎!≫
乱雑な文字が目に飛び込み、複雑な思いが胸をめぐる。
まあ田舎には違いないが、ひと山越えて登校している俺の身にもなってほしいものだ。
コンビニもなければバスなんて朝昼夕の1日3本が基本。だからこそスクーター登校なわけで。洋服を買える店だってないから通販万歳だけど、届くまで時間かかりすぎだし、本屋だって発売日に入荷してくれない。
そんなド田舎での寄り道と言えば、誰かの農園もしくはボロい商店くらいでさ。学校帰りに採れたての野菜とか果物とか貰って食べたり、100円そこらでアイスや駄菓子を買って、暗くなるまで探検したり競争したり。
今思えば何がそんなに楽しかったのかと思うけど、俺の幼少時代は泥だらけが当たり前の、青青とした毎日だったと思う。
懐かしい気持ちに浸っていると、立って何かをしていた陽に腕を引っ張られる。されるがまま立ち上がり、校舎の外壁に背を預けた。
「え。壁ドン?」
「おだづな、アホ。いいからじっとしてらい」
なんだよ急に。べつに調子のってねえし。
ていうか近寄りすぎだろ。
陽は左手を壁に付け俺を囲うと、頭上に右手を伸ばした。わさわさと髪の毛が揺れ、かすかな振動が伝ってくる。
「動くなてば!」
「いって!」
ちょっと顔を背けただけなのに、腿に膝蹴りを食らった。
「なんだよもー……早くしろや」
そう悪態をつきながら、頬にかかる陽の吐息に心拍数は休まらず、強く眼をつむった。
目のやり場に、困るっての。