彼女の薬指(仮)
「幸弥先輩」
「なんでシカトするのかなー。俺が声かけてるのになー」

 先輩は俺の前の席に、A定食ののったトレーを置き、空いている俺の前の席に座った。
 俺に向かって悪態をつくけれども、口端には意地悪な笑みを浮かべて、完全に俺をからっているのがわかる。

「いや、別に。わざと無視していたわけでないッスよ。ただ、桜終わりだなぁって」
「………あん?」

 最後のラーメンをすすり、スープを飲みながら、視線を窓の外の中庭の桜へと向けると、先輩もそれにつられて「さくら?」と呟きながら視線を同じように動かして、分かったのか「ああ」と、一言呟いた。

「あれ?幸弥先輩が来たってことは」
「そうね、そろそろ、中等部の昼休み終わるんじゃね?」
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