麗雪神話~理の鍵人~
ヴェインは何も言わずに、テントの中へと入っていった。

心底人をこばかにしたようなため息を、通りすがりざま残して。

(むぅぅぅ~~~~)

しかしこんなことにいちいち腹を立てていたら、身がもたない。

セレイアも早く眠るに越したことがないので、ポックに火の番を任せてテントに入った。

寝袋にくるまり横になっていると、今日一日のいろいろな出来事が頭の中を駆け巡る。

体は鉛のように重たく、疲れているのに、目は冴え冴えとしていた。

セレイアは寝袋ごと何度も何度も寝返りを打ち、そしてついにため息をついて身を起こした。

(……眠れない)

致し方ないだろう。今日はいろいろなことがありすぎた。

セレイアはテントからそっと顔を出した。

火の照り返しを受けて、ポックの横顔が夜の闇に浮かび上がっている。

こちらに気付いたらしく、ポックが意外そうな顔をした。

「どうしたセレイア。
眠れないのか?」

「………うん、ごめん」

せっかく寝心地のいいテントまで用意してもらったのに、申し訳ないという意味での謝罪だった。
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