麗雪神話~理の鍵人~
数秒、固まるヴェイン。

それから、は、と細い息を吐き出して嘲るように笑った。

「ばかな。君、何を考えているわけ」

「あなたに私の考えをすべて教える必要はないわ。とりあえず手当をしながら行くわよ。そんなに殺されたいなら、理の塔についてから、たっぷり時間をかけて殺してあげるわ。覚悟なさい」

ちょっと悪そうににたりと笑って見せる。

そうした方が、ヴェインが素直に自分たちを頼れるのではないかと思ったからだ。

(…って、そこまで気を遣うって、どんだけ甘いのよ、私)

甘くてもなんでも、敵でもなんでも、目の前で消えていく命を放ってはおけない。それだけは譲れない。目の前で失われた、大切な命のためにも…。

ヴェインはまだ納得がいっていないようだった。

「僕が隙をついて君を殺すと、思わないの?」

―当然の質問だと思う。

「今のあなたにやられるほど、私は鈍っちゃいないわ」

「理の塔は僕の目的地でもあるんだよ? そんなところに敵の僕を連れていくなんて……仲間を裏切る気?」

「裏切るなんてことにならないわ。目的地に着いてから叩きのめしても間に合うもの」

問答は無意味と悟ったのか、ヴェインは力なく笑った。

「…ふん、好きにすれば。恩だとか、そんなもの、僕は感じないからね」

かくして今限りの協定が定まり、今限りの仲間が誕生したのだった。
< 107 / 159 >

この作品をシェア

pagetop