麗雪神話~理の鍵人~
ヴァルクスのことを忘れてしまったわけでは決してないから、ひょっとして自分は軽薄な人間なのだろうかとも思ってしまう。

(伝えられるわけがないわ……)

セレイアは人間で、ディセルは神。

その差は埋めようがない。

それに、そんなふうに別の人を好きになって、自分だけ幸せになるなんてことを、セレイアは自分に許してやれそうもなかった。

セレイアはため息をつきながら、樹氷の景色の中、さくさくと雪を踏んで歩く。

その時だった。

「わあ! やめろ! はなせ!」

誰かの必死な叫び声がセレイアの耳に届いた。

あの樹の向こうだ。

何かよからぬことが起こっていると確信するなり、セレイアは駆けだしていた。

幸い馴染んだ武器はちゃんと手に持ってやってきた。

樹の影に、複数の人影が見えた。

鎧兜に身を包んだ彼らは、剣をふりかざし、よってたかって何かとても小さい生物を攻撃しようとしている。
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