麗雪神話~理の鍵人~
ヴェインは何者なのだろう。

いったいどこから来たのだろう。

そういった基本的なことを、セレイアは知りたかった。訊ねてはみたが、答えてはくれない。「その小さな頭でせいぜい考えるといい」と小ばかにしたように笑われてしまって終わりだった。


(―こいつ、隙だらけだ)

前を行くセレイアの背中を見ながら、ヴェインはそう思った。

ヴェインが襲ってくる心配はないとでも思っているのか。この無防備な背中はなんだ。

セレイアのそういった甘さに、心動かされることなどありえない。ヴェインはいつでも隙をついて、セレイアの持つ槍を奪おうと考えている。情など湧かぬ。そんなものはとうに忘れたのだ。

体調さえ万全であれば、奪った槍で今すぐにでも簡単に殺せる。

だが、それではつまらないのも事実だ。

この女は、なんとしてでもスノーティアスの目の前で、殺してやらねばならないのだから。

彼に絶望を教えてやらねばならない。

ヴェインがずっとずっと、抱えているのと同じ想いを。

すべては主のために―――

(メラノイド様のために)

ヴェインにとってメラノイドは、すべてだ。

唯一絶対の主であり、それ以上の存在ともいえる。
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