麗雪神話~理の鍵人~
セレイアたちは、何日も根気強く山道を登っていった。

そのおかげで、目的地“理の塔”は目前に迫っていた。

セレイアの丁寧な手当のおかげか、ヴェインの体調も少しずつ戻って来ているようだ。ふらつかなくなったし、歩きながら憎まれ口を叩くことも多くなった。

神ゆえ、ヴェインは食事がいらないらしく、食事こそ共にはしなかったが、何日も隣のテントで寝起きして、他愛ない会話もした。セレイアは少しだがヴェインの心に近づけたような気がしていた。

相変わらず、核心に触れるようなことは、いっさい黙して語らなかったが…。

そして理の塔まで、あと一息という時。

突然の出来事だった。

空からまばゆい光が降ってきたのだ。いや、舞い降りてきたというべきか。

まぶしくて目を開けていられないような光の中に、何者かの影がある。

セレイアは細めた目を凝らして、その影の正体を探った。

この形は、人ではない。

(獣――――?)

そう思った時、光が弱まり、だんだんとその影の姿がはっきりとしてきた。

セレイアは何度も瞬きし、その影を見つめる。

光がついに消え失せると、そこには―――

グルルゥと獰猛そうに唸る、一匹の獣の姿があった。

太い爪、鋭い牙、豊かなたてがみ。

―獅子だ。
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